原田マハ『生きるぼくら』
メディアや書店などでよくお名前を見かける、人気作家の原田マハさん。
気にはなりつつもなかなか読む機会がありませんでしたが、ある時SNSでたまたま知った「どうやらムネリンの妹さんらしい」という情報でいっぺんに興味が湧き上がった私(単純ですみません)。
※この時に少しだけ書きましたね→【過去記事】星々の悲しみ。2024.6.28
ひとまず何か一冊読んでみたいなと思い、選んだのがこの『生きるぼくら』という作品。まずはタイトルに惹かれ、そして裏表紙のあらすじを読むと、どうやら蓼科で米作りをする展開になるみたい。「蓼科が舞台なら読まねば」と思ったのが決め手でした。
以下、若干ネタバレ要素が含まれるかもしれません。ご注意くださいm(__)m
主人公は麻生人生(あそうじんせい)という24歳の青年。あ、今気付いたけど名前に「生きる」が二文字も入っていたのか。
東京の小さなアパートで引きこもり生活をしていた人生が、母親に捨てられたことをきっかけに意を決して外の世界へと飛び出していく、希望と再生の物語。
人生が引きこもるようになったのは学生時代のいじめが原因だったのですが、序盤に綴られたその描写があまりに痛ましく、「これはある程度カタルシスがあるところまで読まないと嫌な夢見そうだな…!しかしもう眠いんだが…!!」と軽い気持ちで読み始めたのを激しく後悔したのも良き思ひ出。
目をこすりながら何とかいじめパートを越え、人生の「人生」が少しずつ動き出すところまで読み、少しほっとして栞をはさんだのでした。
その後も人生やその家族、村人のみんなにも様々な困難が訪れるけれど、日々の生活や米作りを通してそれぞれの小さな光を見出していく。すべての人々に向けられた、とても素直な物語でした。そして猛烈におにぎりが食べたくなる。更に八ヶ岳が見たくなる。これはおにぎりを持って八ヶ岳に行く、が最適解か?なんて。
作中で意外と気になったのは、ばあちゃんの「自然の田んぼ」での米作りのこと。ざっくり書くと、この田んぼは耕さないし肥料も使わないし草取りもしない。厳密に言うと強い夏草だけを選んで取るけど勝手に枯れるようなものは放置してそのまま土の栄養にする。自然の田んぼは地中で虫たちが盛んに活動しているから耕さなくともふかふかになる。(作中にはもっと詳しく書かれています)
我が家は田んぼはないけれど畑はやっているので、「なるほど…」と思いながら読ませていただきました。そしてそれをオットに「今読んでる小説にこんなことが書いてあった」と話すと、オットは一言「そうだよ」と。
どうやらオットが参考にしているとある農家さんが、SNSや動画などで同じことを語っていらっしゃるのだとか。完璧に同じことはできないけどオットも一部は実践しているのだそう。
「だからうちの畑は草だらけなんだよね。ハッハッハ!!」
…我が家が実践するとただ単に手入れが追い付いてない畑って感じだけどな(;'∀')そして庭も…。
思い返してみれば随分前から自然農法を取り入れてる知人も数人いたっけ。といってもやり方にはたくさんの種類があるだろうから、自然の田んぼや畑=自然農法とくくってしまうと語弊がありそう。すみません、曖昧です!
ばあちゃんの自然の田んぼは人生たちにとても大事なことを教えてくれたけど、ただの自然賛美ではないところが好ましいなと感じました。土を耕してくれる虫たちについて「がんばってくれてたんだ」と言えば「がんばってないよ、自然のまんま、そのまんまなだけ」と答えが返ってくる。そういえば内山節さんのキツネ本にも「自然の元々の読みはシゼンではなくジネンといって、おのずから、という意味であり」という話が書かれていたっけ。またその本につなげるのかと言われそうですが、気付いたらなぜかつながっているというのはなんだか面白いことですね。
自然のサイクルの中で生きるぼくら。「五里霧中だ」という人生に対し気楽な傍観者である私は「大丈夫だよ!」と励ましながら読み続け、そして最後は「良かったじゃん!これからも頑張れよ!」と人生の背中をばしばし叩きたくなるような結末でした。
涙は出ないけどじんわりとした温かさのある、良い読後感だな。さてそのまま解説を読むか、とページをめくると桂南光さんの「実は、めっちゃ仲良しなんですわ。」で何とも名状しがたい気持ちになったところまでが本作の感想です。ありがとうございます。
ところで、先程リンクを張った過去記事(星々の悲しみ。2024.6.28)にて「登場人物を実在の俳優さんに当てはめる癖」があると書きましたが、今回の『生きるぼくら』ももちろんあれこれと想像しておりました。
発表します。私が考える『生きるぼくら』キャスティング、ばあちゃんの孫のつぼみ役は…
ドゥルルルルルルルル……(ドラムロール)、ジャン!
あのちゃんです。
…いや、これに関しては最後まで「ほんまか?」と首をひねっていましたが、結局私の脳内にはずっとあのちゃんが居座っていました。ちなみに主人公の人生は、いつだったかSNSのおすすめで流れてきたメンズメイクのさっぱり顔の青年。←これこそ「なぜ?」なんだが一度脳内でイメージが固定されちゃうと変わらないんですよね…。ちなみにマーサばあちゃんは晩年の八千草薫さん。ふんわり優しげで可愛い感じ。
『星々の悲しみ』の時は「お前七三だったんか事件」がありましたが、本書は登場人物の髪型の描写が早めにあったので妄想が捗りました。(私は人物像を髪型で見ているのだろうか…)
さて今回『生きるぼくら』を楽しく読ませていただいたので他の作品も…と思ったのですが、原田マハさんといえばアートを題材にした小説が多く、「アートノベルの第一人者」とも言われているそうですね。
何も知らない私は「アートが好きな方なのかな」と思っていたのですが、なんと大学の美術史科を卒業されており、国内外の有名な美術館での勤務を経て、現在はキュレーターとしてのお仕事もされているとか。小説家でありアートの専門家でもあるなんて。
※キュレーターとは、博物館や美術館などで資料収集、保管、展示、調査研究などに携わる専門職員のこと
実を言うと『生きるぼくら』を読むより前に『たゆたえども沈まず』という作品が気になっていて、書店で手に取ったこともあるのですが「ゴッホ…ゴッホかぁ…」とそのまま棚に戻してしまいました。作品自体はとても面白いのだろうけど「美術知識ゼロの私が読んでも楽しめるのかな?」という懸念がありまして(なんて悲しい理由だ)。
でもものは試しですよね。これを機に、他の作品も読んでみようと思います。原田マハさんファンの方がいらしたら、お好きな作品をぜひ教えてくださいませ(^^)/