ひねもすのたり。

日々と山と猫と蕎麦屋のこと。

『バイバイ、ブラックバード』。

伊坂幸太郎『バイバイ、ブラックバード

少し前に読んだ本の話。(若干のネタバレが含まれますのでご注意ください)

何がきっかけだったか、この作品が太宰治の未完の遺作『グッド・バイ』のオマージュだということを知りまして。そう聞くとぜひ読んでみたい、と思い立ち早速購入したのでした。

なんて言いながら実は太宰の『グッド・バイ』も読んだことがないんですけどね…。

いや、もしかしたら昔読んだかも?いや、確か読んでないと思うけどなぁ、とぼんやりとした記憶を抱えつつ念のため本棚を確認しに行くと、やはり『グッド・バイ』が収録されている本はありませんでした。が、それよりも妙な事態が起こっていることに気付きまして。

うちの本棚、『人間失格』が二冊あるんですよ…。

なぜだ?私はよっぽど人間失格なのだという暗喩?

おそらく一冊は私のもので、もう一冊はオットのだろうと思って尋ねてみたら「え~?太宰あんまり好きじゃないから自分のじゃないと思うけどなぁ、あ、でももしかしたら実家から持ってきたんだっけ?」と曖昧な返答でした。まぁいっか、あまり気にせんどこう。

 

伊坂幸太郎の『バイバイ、ブラックバード』はこんなお話。5人の女性と同時に交際している主人公、星野。とある事情からその関係をすべて清算することになり、女性たち一人ひとりに別れ話をしに行く。ただそのお別れ行脚には一人の付き添いがいた。それがアブドーラ・ザ・ブッチャー並みの怪女、繭美。

付き添いというと言葉がやさしいけど、実際は星野が逃げないように目を光らせる監視役なのです。序盤は繭美の言動に「うわうわ」と不快感を覚えたものですが、読み進めるうちに繭美に惹かれてしまう不思議…!臨場感あふれるなんとも痛快な物語でした。

繭美に対する扱いがだんだんと雑になっていくところもツボで、途中から完全に繭美の怒声は「獣の咆哮」だし、「待てよ、と彼女の星の言葉で叫んだ」シーンは読みながらニヤニヤが止まらない。最初は弱々しい印象だった星野くんも「君がいると遠近法が壊れる」とまで言えるようになったか…と二人の関係が徐々に変化していく様子は何とも言えないおかしみがありました。監視する側とされる側という緊張感漂う雰囲気から、友情でも愛情でもなく、絆という言葉も存在せず、これは一体どういう感情なのかわかるはずもないのだけど、最後まで読めば誰もが応援せざるを得ない。最高にカッコいいラストだったなぁ…。

これまでなんとなく伊坂幸太郎さんの小説は読む機会がなく(映画は何本か観ましたが)、実は今作品が初めてだったけど、小気味いいテンポが癖になりそう。終盤でたまたま出くわした学生に対して「おい辞書貸せよ、あるじゃねえか、寄越せよ」からの「なんでドイツ語なんだよ!」は、何のコントを見せられているんだと声を出して笑ってしまいました。これを機に他の作品も読んでみよう。

 

ところでこの『バイバイ、ブラックバード』は2018年にWOWOWでドラマ化されているんですね。キャストを見たら主人公の星野役は高良健吾さん。5人の女性たちもそれぞれ人気女優さんの名前が並んでいました(如月ユミ役が前田敦子ちゃんなの面白すぎる)。

ただその中に「城田優」という名前… あれ?主人公も5人の女性たちも出揃っているのに、彼は何役?と思ってよく見てみたら

 

繭美役=城田優 か!!!

 

確かに普通の女優さんだと無理だろうなとは思ったけど、城田優さんが起用されているとは思わずしばらく笑いが止まりませんでした。これ絶対面白いじゃん、絶対観よう。(と言いつつまだ観ていないのだけど)

それにしても『バイバイ、ブラックバード』に登場する繭美の破天荒さを見ていると、元の『グッド・バイ』はどうなっちゃってんのさ…と俄然読みたくなってきました。『グッド・バイ』でも、複数の女性を一人ひとり訪ね別れを告げていく、という基本のあらすじだけはなんとなく知ってはいましたが、繭美に該当するのはキヌ子という女性で、なんでも「すごい美人」なのだとか。

な、なるほど…!!!

『グッド・バイ』だと「すごい美人を連れて行って、この人と結婚するから別れてくださいと言えばみんなあっさり引き下がるよ」というのが、『バイバイ、ブラックバード』だと「こんな怪物みたいな女と結婚するって言えばみんな諦めるだろ」という流れになったのか。

これはどちらも合わせて読んでみなければな~。

 

と、思っていたら、

先日のあの出会いがあったのでした。(過去記事:命のおかき、そして古本。 - ひねもすのたり。)

現在他の本と並行してちまちま読み始めているのですが、肝心の『グッド・バイ』は一番最後に収録されているのでもう少し先のお楽しみにしておきます。

以上、読書メモというほど内容のあるものではありませんが個人的備忘録でした_(._.)_