例の『諏訪史第一巻』企画展示にて、お名前を何度もお見かけした鳥居龍蔵さん。先日購入した書籍も少しずつ読み進めてはいるのですが、もともと我が家にある本にも鳥居龍蔵さんのことが書かれているのでは?と、諏訪・考古学関連のものをいくつかパラパラめくってみたところ
山本ひろ子さんが編者を務めた『諏訪学』、この分厚い本の中に…
見つけました。この本、実は数年前に購入していたのですが最初の数ページを読んだだけでそのまま積ん読状態でした。新しい本を買うのもいいけど既にあるものもちゃんと読まなければな…と思いながら目次を眺めていたら、
!!??
気になってページを開いてみたら、なんと鹿児島県甑島に伝わる甲賀三郎伝承について書かれていてびっくり。甲賀三郎ってかなりバリエーションの多い昔話と聞いているけど、ほとんどが信州で語られているのだと思っていました。
【伝承の一例】
- 天狗にさらわれた春日姫を探して蓼科山の人穴に迷い込んだ三郎は、何年も地底の国を彷徨った後に蛇体となって地上に戻り諏訪に祀られた
- 若狭で猟をしている時に兄弟から穴に落とされてそれが信濃まで続いていた
- 龍となった妻が諏訪湖底で待っていたため三郎も龍になり湖に入った
遠く離れた鹿児島でも語られているとは。
しかも話の内容も面白くて、ざっくり書き出すとこんな感じ。
殿様の娘が魔物にさらわれ、「探し出してくれた者を跡取りにする」というおふれが出された。それを聞いて山奥に住む兄弟が救出に向かった。まず弟が深い洞穴に入り、娘をさらった蜘蛛の魔物を退治した。上にいる兄に娘と自分を引き上げてもらおうと思ったが、兄は娘だけを引き上げて弟のことは置き去りにした。(その後、兄は娘を殿様のもとへ連れて行き殿様の養子となった。)
弟はそのまま洞穴で過ごさなければならなかったが、ちょうど三年目の二十三夜にいよいよ食べるものもなくなり、今夜がお月様の拝み納めかと思っていると、なんと月が三つになった。
そのうちの二つが船と船頭になり、弟を乗せて白浜まで送り届けたあと「私は二十三夜の月である」と名乗って去った。
本書に載っている話はここまで。ただネットで検索したら結末まで紹介されているサイトがかろうじて見つかりまして、それによると
弟は辿り着いた家の婆に介抱されて元気になり、その後、ある人の紹介で兄の御殿の下男になった。あるとき弟は兄に復讐しようと兄の首をしめたので役人に捕らえられたが、処刑の前に娘と会わせてもらうと、娘が毎日弟にご飯を供えていたことがわかった。
今度は兄が捕らえられて責め苦に遭う。そして弟は兄の代わりに娘と一緒になり、殿様の跡取りとなった。
へぇ~… あれ?「娘が毎日弟にご飯を供えていた」というのは、洞穴での話?
あ~そういうことだったんだ!『諏訪学』には、洞穴に閉じ込められた時点で「食べるものもないし今日死ぬか明日死ぬか」と書かれた直後に三年が経過していたので「どうやって生き延びたんだ??」と思っていたのですよ。
確かに娘の立場からすれば「ちょっとお兄さん、魔物を退治してくれた弟さんがまだ穴の中にいますよ!?」と思いますよね… しかしそこで殿様か誰かに「私を助けてくれた人が取り残されているんです」とは言い出せなかったのかな。言ったけど兄に「ご冗談を」とかき消されたのか。
そのあたりが謎ですが、最後に弟が報われたようで良かった良かった。
さてここから本書では甲賀三郎伝承や各地に伝わる月神話について掘り下げ、ことによると縄文時代、旧石器時代まで遡る「古層の神話性」がかすかに感じ取れるかもしれない、という興味深い話へと展開していきます。
中でも気になったのは以下の一節。
西欧に反して我々の方では、まだ幸いに同じ母語の圏内に、いろいろの比較に供すべき活きた昔話を持っている。(中略)純乎たる文芸の目途から、これを改作しようとした者のなかった話し方が今なお凡人大衆の間には伝わっているのである。
橋はもうなくとも飛石だけはある。我々はそれを踏んで神話の彼岸にまで渡って行けるのである。
「橋はもうなくとも飛石だけはある」があまりにカッコよすぎて痺れます。ちなみにこの文章は柳田國男の『桃太郎の誕生』に書かれているものだそう。
そして本書では続けて2010年の諏訪フォーラムにて藤井貞和先生が提唱した「<新石器紀>の、想定される神話が、破壊されながら、ばらばらに<民話紀>(=昔話紀)のなかへ浮上してくる」という話に触れ…
はぁ~~~~~~~~~~~~。
なんだかすごく何かを掴めそうな気がしているんだけどうまく言葉にできなくて結局ため息しか出ません。これは藤森栄一さんが土偶の破壊とオオゲツヒメ神話を結び付けたのも一例として含めてもいいものなのかな?そういう系統の話で合っているのかそれとも的外れなのか…
とあれこれ思いを巡らせていましたが、そもそも本の内容をほとんど読んでいないのにエピローグだけ読むもんじゃないよなということに気付き、本をそっと閉じたのでした。
ちゃんと最初から読もう、その上でまた甲賀三郎月面着陸のエピローグを読もう。
…ん?ちょっと待て、
三郎、月面着陸してなくない??
…新たなもやもやが増えましたが、ひとまず今回はここまで…。