ひねもすのたり。

日々と山と猫と蕎麦屋のこと。

こぼれ梅。

 

少し前のことですが、いつも関西からお越しくださる常連さまからお土産をいただきました。

わ~嬉しいな~何が入ってるんだろう、と袋を開けてみると、

伊丹… こぼれ…

!!??

こぼれ梅!?

伊丹名物!!!こぼれ梅!!!!!

こぼれ梅といえば、上方落語『鷺とり』序盤で雀を捕まえるために使われるお菓子。私は枝雀さんの『鷺とり』があまりに好きすぎて暗唱するほど聞き込んだので、まさか実物を拝める日が来るとは…感激で震えました。というか今でも普通に売ってるものなんですね。

急いでオットにこぼれ梅をいただいたことを報告すると、

「え!あの、ジュジュウジュウジュウの!?」

と、これまた私と同じ反応をしておりました。ジュジュジュウジュウ…

 

『鷺とり』序盤では、ある男がお金を稼ぐために雀を捕まえようとする場面があります。用意するのはこぼれ梅をひと袋、そして南京豆(落花生)をひと袋。

「まずこぼれ梅を庭へさしてベタ一面へビヤ~~~~~っとまきまんねん、ビヤ~~~っと。そうするとあっちからもこっちからも雀が寄ってきますわ」

チュン八たんにおチュンさんにチュン六はんにチュン兵衛はん、さらに、わずか遅れて遥か辰巳の方角からチュチュウチュチュウと江戸っ子の雀まで飛んできます。

初めは訝しげに眺めているだけだった雀たちも、江戸っ子雀に発破をかけられてみんな一斉にわ~っと下りてきて、こぼれ梅食べよったくらいよったいただきよった頂戴しよった………ヒック、ヒック、チュウチュウチュウ…ジュウジュウジュウ…

実はこのこぼれ梅というお菓子、味醂の搾りかすでできています。つまりはお酒ということで、それを食べた雀たちもすっかり酔っぱらってしまいました。

陽気に宴会を始めた雀たちでしたが、次第次第に酔いが回って、うとうと…

「あくびのひとつも出たところで南京豆を撒きまんねん、そうすると『こりゃええ枕がきた』言うて、雀が寝よったところをチリトリとホウキで集めて回る~~~~」

 

さてこの作戦がうまくいったかというと、雀がこぼれ梅を食べて酔っぱらったところまではうまくいったものの(本当に?)、南京豆をばらまいたところでみんなワーッと逃げてしまった、というあっけない結末。

そのあとは腕に墨と色粉をつけてウグイスを捕まえようとする話、寝ている鷺を腰の周りいっぱいに括ってしまう話と続きますが、うまくいったかというとまぁ落語の世界のことなので……。

でもちゃんと挑戦しているところはすごいですよね。ともすれば代書屋ムーブが発動して「これやらなんだぶんです、わたしがおもたぶんです」となりそうなものなのに。

 

…ハッ。話がすっかり『鷺とり』に引っ張られてしまいました。肝心のこぼれ梅ですが、早速いただいてみました。ほんのりとした甘みとお酒の香りで美味…!お酒に弱い私からすると「でもこれは確かに雀も酔っ払うな」という印象でしたが、オットは平気なようで「これはハマるな~」と嬉しそうでした。

珍しいものをありがとうございました\(^^)/