ひねもすのたり。

日々と山と猫と蕎麦屋のこと。

初学者向け哲学本。

飲茶『史上最強の哲学入門』

以前、ゆる言語学ラジオの水野さんが「個人的インパクトファクターが一番高い本」として紹介されていた一冊。ずっと頭の片隅にはあったものの、少し前にようやく購入して読了しました。

哲学の入門書は数あれど、ここまで初学者向けにかみ砕いて書かれた本はそうそうないのでは?と思うほど分かりやすく、「なんとなく聞いたことはあったけどこれってそういうことが言いたかったのか」のオンパレード。

とはいえたった一冊の入門書を読んだだけの私が語れることは何もないので読書メモから備忘録的に綴ろうと思うのですが、まず本書を読んで意外だと思ったこと。

「なんか、著名な哲学者の方々って思ったより長生きだな…?」

そのことに気付いてから、私の中での哲学者のイメージが「部屋にこもって書籍に囲まれひたすら難しいことを考えている」という鬱々としたものから、「自分の内側で生まれた(見つけた)思想を外側へ全力でぶん投げていく」という超アグレッシブな方向に変わってしまいました。

…いや、違う、これは私がそう感じたんじゃなくて完全にこの本の影響だわ。というのも著者の飲茶さんは熱狂的な『バキ』シリーズのファンだそうで、本書は「己の身体の強さを競う格闘家たち=自身の強い論をぶつけ合う哲学者たち」という形で構成されているのです。

『バキ』シリーズというのは板垣恵介先生による大人気格闘技漫画ですが、私は学生の頃に友達の家で少し読んだくらいの記憶しかなくて(._.)でも、バキ知識ゼロの私でも本書は十分楽しめたのでご安心を。

↑もう30年以上経つんですね。ちなみに本書のカバーイラストもなかなかの圧ですが、なんとバキ作者の板垣恵介さんご本人が描かれたのだそうです。ひえ~それは長年のファンとしてはこの上ない喜びでしょうね…!!

 

さて、私が感じた「哲学者って意外と長生きなんだな」というのは、実際どうなんでしょう。

ちらっと検索してみたらいくつか面白い記事が出てきました。最初に読んだのは、「哲学者・思想家の寿命はやたらと長い」ということで著名な方々の年齢を列挙したもの。その記事を書かれた方いわく、あまりに長生きが多いのでギリシャ時代は年齢の数え方が違っていたのでは?という説があるのだとか。なるほど、記紀神話上の天皇パターンかな。とはいえ近代以降の哲学者でも長生きされている方は多いそうですね。

記事内では、早熟な音楽家がいる一方で哲学者は晩熟であるということに触れ、「35歳を過ぎると思考の瞬発力が低下すると言われるが、脳が若さを失うことで人類や歴史への考察力が増加することもある」という印象深い話も。

ただ、数人の哲学者の生涯を解説する中で「孤独なおっさんが人類について考えを巡らすのが哲学なので」という一節には思わずフフッとなってしまいました。これは、哲学に詳しい方に「そうなんですか?」と尋ねてみたいような。

また別の記事では「哲学者は長生きした者が勝つ」ということが書かれており、これもすごく面白かったな。すべての哲学者が長生きしたわけじゃない、長生きして自身の論文または著作を残せたから現代まで名前が知られる哲学者になったんだ、ということか。例えばカントが『純粋理性批判』を出版したのは57歳の時だから、もしそれよりも早く亡くなっていたとしたら… それは今とは全然違う世の中になっていたかもしれない。

 

結局のところ哲学者は長生きだったのかそうでもなかったのか、はっきりとしたことはわからないけど、そのことを考えていると頭木弘樹さんの『絶望名言』がふと脳裏をよぎりました。あの本では文豪・芸術家たちの鬱々とした気持ちや不遇の境遇などが語られていますが、その人たちと比べると(比べるものでもないのだけど)哲学者からはある種の生に対する「圧」を感じるような気がしてなりません。

だって、ねえ、

いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。(『絶望名言』カフカ回より)

これでは哲学は生まれませんよね。

 

………いや、ちょっと待って、もしかしてこれも哲学なのか??

 

気付いた瞬間なぜだかぞっとしてしまったのですが、ちらっと調べてみたらカフカを哲学から読み解く方は確かにいらっしゃるし、そういった書籍も出版されているようです。や、やっぱりそうなんだ…。

しかもボルヘスが「カフカはゼノンのパラドックス!だから未完作が多いのは当然!終わりようがない!」とまで言っていたのか…なんというか…この世界にはいろんなことを考えている人がいるんだなぁ~…底なし沼だ。

 

ここまでだらだらと書いてきましたが、そういえば本書の内容にはまったく触れていませんでしたね。ひとまず今回はここまでにして、改めて読書メモとして綴りたいと思います_(._.)_