ひねもすのたり。

日々と山と猫と蕎麦屋のこと。

かもしかみち。

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先日の投稿でちらりと書いた藤森栄一先生のこと。

星降る中部高地の縄文世界 ~井戸尻の話~ - ひねもすのたり。

藤森先生は諏訪出身の考古学者であり縄文農耕論を提唱したお方。となりのトトロに出てくるサツキとメイのお父さんのモデルなのではないかとも言われていますね。

多くの本を書かれていますが、私の手元にあるのはこの『かもしかみち』一冊のみ。

しかも諸星大二郎作品に出てくる「時のルング・ワンダルング」の元になった話を読みたいという不純な動機から…(;'∀')

ルング・ワンダルング(リングワンダリング)は、人が方向感覚を失い同じ場所をぐるぐると回り続けてしまうこと。 諸星作品の中ではとある男性が現代から古代に迷い込み、そこで起こしてしまった事件により現代に戻ったあとも古代からの呪いを受け続けるというものでした。

藤森先生の本では霧や精神的幻惑により山の中を彷徨ってしまったという実際のエピソードが語られているのですが、その舞台が霧ヶ峰甲斐駒ヶ岳、鋸岳といった私にとっても馴染み深い山々。

うちの店内からも見える鋸岳。

そして甲斐駒。

登ったことのある山や毎日眺めている山が出てくると嬉しくなるものだけど、内容が内容だけにウキウキとした気分ではとてもいられません。

「ヒェ…」と震え上がりながら読み進めたのですが、その後に登場する「駒ガ岳の小屋のグロテスクな爺は」という一文にすべて持っていかれてしまいました… グロテスクな爺ってどんな爺よ…!?

 

それはそうと諸星作品のルング・ワンダルング話のタイトルは『闇の中の仮面の顔』といいまして、作中には縄文時代の土面が登場します。 これは実際に出土されたとある土面がモチーフになっているのですが、数ヶ月前に新潟の考古館へ行った時にレプリカがあってここでもまた3度見してしまいました。

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トコイさんじゃないですか!?こんなところでお会いできるなんて!

実物は欠けた状態で出土しており向かって左側の部分しかありませんでしたが(原画展で拝見したけど撮影NGだったので残念ながら写真なし)、こちらのレプリカはまるっときれいに補修されていたのでなんだか新鮮だなぁ。「え、これトコイさんだよね?もしかして違う?」と一瞬不安になったほどですが、相馬高校なので間違いないと思う…。

目の下の筋は涙とも入れ墨とも言われているそう。諸星作品では家族を殺された男の涙とされていました(しまったネタバレになってしまう)。

土偶の涙といえば『土偶の顔が少し上を向いているのは、月の水である涙を集めるため。月の水は蘇りの儀式に使われたのではないか』という解説を読んだことがあります。あくまで一説だそうですが。

縄文人の精神世界は奥が深すぎますね。現代人が一生懸命考えても「これは絶対こうなんだ!」という結論が出ないところがまたロマンであります。人それぞれの結論はあるでしょうけども。本当のところは縄文人に「これってなんだったのさ」と訊かない限りわかりませんもんね…。 

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土面のひとつひとつに色々な思いが込められているんでしょうね。

 

最後に。

『闇の中の仮面の顔』が収録されているのは妖怪ハンター地の巻。

他にも天の巻、水の巻、あとは新しく出たシリーズなども色々ありますが、やっぱり私はダントツで地の巻が好きです。原画展の顔出しパネルにもなったヒルコの「みろ、このみにくい姿を!」や、ぜずさまの「おらといっしょにぱらいそさいくだ!」、お魚くわえての「あんとく様おゆるしを!」などなど…名シーンがこの一冊に詰まっております。どれから読もうかなと迷っている方におすすめですよ\(^^)/