初秋の雨飾山で、女神の横顔に出会う。
▲雨飾山
長野県北安曇郡小谷村と新潟県糸魚川市との県境にある、標高1,963.2mの山。妙高戸隠連山国立公園に属している。山頂に置かれた石仏が北に向いているところから、元々は越後、日本海側の信仰の山だったと推測される。
【今回のルート】
雨飾高原キャンプ場P→雨飾山山頂のピストン
▲合計距離 8.23km
▲累積標高差 885m
▲コースタイム 合計6時間15分(行動5時間1分+休憩1時間14分)
【いきさつ】
前回、というよりこの前日に後立山連峰の爺ヶ岳に登った私たち。実は下山後に自宅へ帰らず、車中泊をしてもう一座登ろう!ということになっていたのです。
翌日に目指したのは長野県小谷村にある雨飾山。新潟県との境にある山です。
百名山だし人気の山なので数年前から行ってみたいな~とは思っていたのです。それが今回、私が思いつきで「せっかく大町まで行くなら車中泊して雨飾でも登っちゃう~?(なんてね)」と言ったところ、それがそのまま採用となりまして(;'∀')
私たちが登ったのは9月末。10月の紅葉シーズンには交通規制がかかるほどの大混雑になるらしいので、その前に行けてよかったかな(もちろん最盛期はとてもきれいなんだろうけど…)。
【本編】
前日は爺から下山後日帰り温泉に立ち寄り、その後雨飾高原キャンプ場に移動しました。そしてそのまま駐車場にて車中泊。
当日、駐車場から見た朝焼け。
駐車場には十数台の車がありましたが、私たちが朝焼けを眺めてぼんやりしたりもそもそ朝ごはんを食べている間に半数以上の方が出発されていました。
6:34 私たちはかなりのんびり出発。
山頂までおよそ3時間半のコースタイム。標高差は1000mもない程度だしのんびり行きましょ~~~。
歩き始めてしばらくはほぼ平坦な道を歩いていきます。周囲は鬱蒼とした森…
そしてだんだんと木の根っこに覆われた急登が現れはじめました。
そして登山道脇にはつやつやの丸い葉っぱたち。イワカガミ…じゃなくてイワウチワ?木の根っこの感じが大川入山とか越百山みたいだなぁと思ったけど、植生も似ているような(素人の勝手な印象ですが)。来年の初夏は久々にイワウチワ探しに出かけたいな~。
雨飾山は400mごとに「○/11」の表示があります。初見では標高かな?と思ったのですが…
少し登ったら今度は1600m。えっもう標高差400mも登った!?とびっくりしたけどよく考えたら距離のことなんですね(;'∀')
いや~勘違いしてしまった~と思ったけど、このあと上で行き会った方も同じことをおっしゃっていたので「そうですよね~!」と声を大にして言いたくなった私でした。
ヤマアジサイのガクがドライフラワーになって。まだ葉っぱの緑がきれい。
しばし登っていくとブナ平に到着。
名前のとおり、周囲にはブナの巨木が立ち並んでいました。でもちゃんと撮れた写真があんまりなかった…失敬。
紅葉にはまだ少し早い9月下旬。緑がまだきれいで、更にこの時大きな台風が太平洋側に近づいていた影響もあってかものすごく暑くて…なんだか夏の山を歩いているような感覚に陥りました。
やたら暑いし急登だし…で久々に息を切らしながら歩いていたところ、ふと山頂方面の視界が開けました。わあ!すごい!あれが山頂か…ん?どれだ?一番右がそうなのかな?
もう少し進むと荒菅沢に出るはずなんだけど、そこに辿り着くまでには結構な下りが待っていました。左右には白い花がたくさん。この花、よく見ると花火みたいにきれいで好きなんだけど同定が難しくていつも「セリ科のなにか」と呼んでいます。
そして下りきると荒菅沢に到着しました。ここから左側を眺めると…
有名な「布団菱」というゴツゴツ岩エリアが見えてきました。
実はこの数日前に『にっぽん百名山』で雨飾山の回を観たのですが、あのとんがりがひし形に見えるからそう呼ばれているんだと言っていたような気がします。でもうろ覚えなので違っていたらスミマセン…。
でも、更に登ると白く平たい岩が現れて、それが布団を干すのにちょうど良さそうな岩だからそこが布団菱と呼ばれるようになったとも言っていたような…??
だめだ、記憶が曖昧過ぎる(T_T)
なんにしてもものすごい山容ですね。
深田久弥はこの荒菅沢沿いに登っていき、布団菱方面から山頂へ向かったのだそうです。かなり険しい道らしく一般ルートではないけど、久弥の足跡を辿って同じルートに挑戦する登山者もいるとのこと。
私たちはもちろん一般ルートを行くので、荒菅沢を渡り向こう側の登山道へ。そして更に登っていきます。ここまでもぼちぼち急登だったけど更に急になってきたな…。
この辺りまでくるとようやく他の登山者さんに追いつきました。とはいえ平日だし紅葉前なので、混雑もなく登りやすかったな。紅葉ピーク時の週末は渋滞して歩くのも大変そう。
「雨飾山って標高のわりにキツイんだよ」と聞いてはいましたが…確かにキツイ。
ふと登山道脇の青い実が目に留まりました。葉っぱがツバメオモトのようだったからおそらくそうだと思う…きれいな実でほっと癒されました。
更に登っていくと、前方左側に白い岩肌が見えてきました。あ、あれだ!布団が干せそうな大きな平たい岩。
私の脳内では、さっきのとんがったひし形の山塊とこの平たい岩のどちらも布団菱なんだけど、全然別物ですよね(;'∀')なんだろう、私はテレビを見ながら夢でも見ていたのかな??
上部には山頂らしき場所が見えてきた!と思ったけど後から考えるとあそこは笹平だったかも。まだまだ頑張って登るぞ~。
樹林帯歩きが終わると、岩々ゾーンが姿を現しました。
決して難しい岩場ではないけど、落石や滑落に気を付けて慎重に。
振り返るとゆったりとした山々の連なりが。一番奥に見えている山塊はどこなんだろう…初めて来る場所だと特に山座同定が出来なくなってしまう。(基本的に方向音痴)
岩場やハシゴをもりもり登って…
標高を上げていきます。
登り切って笹平に着くと、ようやく山頂が見えてきました。そして進む先には一面の笹の原っぱ。
秋のお花も少しだけ。このリンドウはオヤマリンドウ?
久々に海を見られてなんだか嬉しい\(^^)/美味しい海鮮丼が食べたくなるな~。
さて、山頂へ向けて笹原の中を進んでいきます。意外と背が高いのでお子さんや女性だと埋もれてしまうかも。でも道ははっきりしています。
おおー、谷側はすごい高度感。美しい崖です。
笹原を通り過ぎ、いよいよ最後の急登です。
登りながらふと足を止めて振り返ると…
あ、しまった。ついついフライングしてしまった。
歩いてきた笹原を山頂から見下ろすと「女神の横顔」が見えると有名な雨飾山。途中から眺めてもくっきり!なんて美しい女神様なんだろう。
女神様に元気をもらい、最後の登りをよいこらしょ。
そして…
9:29 山頂に到着…!!!
あれ?こっちじゃなかった?
あ、山頂標識があるのはあっちか!
ここ雨飾山は双耳峰なので山頂が二つあります。私たちが先に到着した方は石仏が安置されている方でした。↑しかも先程の写真を見ると石仏の後ろから撮ってるし…失礼いたしました。
きちんと正面に回って、お参りをば。お邪魔いたします。
これらの石仏は糸魚川の羅漢上人という名僧が自ら彫り、ここまで担ぎ上げたのだそうですよ。
比較的新しい石碑には大網講中という文字。小谷村に大網という地区があるそうなのでそこの信仰なのかな。
他の石碑には「姫神」という文字。
こちらが姫神様なのかしら?
そうそう、先程も載せた「女神の横顔」の写真。あれはヌナカワヒメの横顔だと言われているそうなんです。
高志国(現在の福井県敦賀市から山形県庄内地方の一部)の沼河に住む、美しく賢いヌナカワヒメ。オオクニヌシはその評判を聞きつけ、高志国まではるばるやってきてヌナカワヒメに求婚し、二神は結婚したのだそうです。
新潟県糸魚川市に残る伝承では、その二神の間に生まれた子がタケミナカタで、姫川をさかのぼって諏訪に入り、諏訪大社のご祭神になったと言われているそう。
そうそう、糸魚川といえば翡翠が有名ですが、祭祀に使われた翡翠が神格化したものがヌナカワヒメとされているとのこと。美しい女神様なんだろうなぁ…。
実は数か月前に守屋山へ登ったとき、改めてそのあたりの神話をざっくり調べつつ『孔子暗黒伝』を再読していたのですが、その中でハリ・ハラが出雲から高志国へ向かうときにヌナカワヒメの名前が出てくるのですよね。
そして今回雨飾山に行こうと決めてから「この女神ってヌナカワヒメなんだ!」ということを知ったので、いつかの守屋山と今回の雨飾山がつながっているような気がして少し嬉しくなってしまった私でした。
オオナムチ(オオクニヌシ)と同じルートで高天原(諏訪)へ向かうハリ・ハラ、若狭湾から秘密の洞窟を抜けて諏訪入りした顔回さん。イズモの神とモリヤの神の戦い、そして御神渡り。本当に熱すぎる展開で何度読んでもオオォー!となるのだけど、その後の時の御柱こと梵天の塔の話で顔がこうなる→(゜゜)?
さてさて、山の話に戻ります。
石仏や祠にお参りしたら、目と鼻の先にあるもうひとつの山頂へ。望遠レンズのまま近くで撮ったから山頂標識がドアップになってしまったわ。
ちょうど同じタイミングで登頂されたソロの男性と少々立ち話をしたのですが、その方も「いや~キツイとは聞いていたけどかなりキツかったですね」とおっしゃっていました。やっぱりそうですよね~(;'∀')距離も標高差もそこまでじゃないのに、なんだろう?この疲労感は。
ああ、でも頑張って登ってきてよかった。
ふーっと深呼吸をしながらもう一度女神の横顔を眺めます。ちょうど歩いている人たちの姿が見える。
雄大でおおらかな笹の一本道。美しいな。
ほんのり色づいた木々。紅葉がピークの頃はより美しいんだろうな~と思うけど、それよりも混雑で嫌になっちゃうかも。平日なら多少はマシなのかな?いつか機会があれば…。
糸魚川方面も遊びに行ってみたいな。先日ブラタモリで糸魚川周辺を巡っていましたよね。糸静線にフォッサマグナに…太古のロマンですな。
あちらが最初に到着したもうひとつの山頂。このあと向こうへ移動してお昼にしました。
周りの山々を眺めながらのんびりとしたひととき。しかしまったく土地勘のない場所である上におよそ2か月も経過してしまったということで、どこをどう写したのかまるでわからないのです(T_T)↑これは妙高のあたりかも。
これはどこだろう…。
まあいっか、気を取り直して再びお山でハルグラです(^^)ココナツカカオも美味!癖になる香ばしさです。
さて、山頂でしばしのんびりさせてもらったのでそろそろ下りましょうか…。女神様はここで見納め。いつかまた。
横顔をなぞりながら笹原をてくてく歩いていきます。
そして山頂を振り返る。どっしりとした良い山容だな。
途中、糸魚川方面との分岐があります。写真を撮りそびれたけど、分岐から眺めると登山道がまっすぐ海に続いているように見えてとても良い風景だったなぁ。
登りで通過した岩場やハシゴもどんどん下っていきます。
白く平らなあの岩がまた見えてきました。
ほんと、お布団を干したくなる気持ちもわかるなぁ。そしてその上で寝そべって昼寝をしてみたい。まあ実際にやったらあっさり滑り落ちてthe endでしょうけど(;'∀')
このあとも順調に下り続けていたのですが…なんだろう、異様に暑い(;´Д`)
台風の影響なのか?9月下旬の山にしてはものすごく蒸し暑かったのです。登りならまだわかるけど下りでこんなに暑いことってそうそうないぞ…
この日の私の服(上半身)は、下着+長袖T+半袖T+長袖シャツと、いつもよりやや厚着。とりあえず上のシャツを脱いでみたけど…やっぱり暑い!
半袖T一枚にしたいけど、そうするには下に着ている長袖Tまで脱がねばならんな…狭い登山道であんまり派手な動きはできないから荒菅沢まで我慢だ。そう思ってあちーあちー言いながらどんどこ下り…
そしてようやく荒菅沢に到着!
男性が一人休憩されていたけどそんなもん構うもんかの勢いで(まあ素っ裸になるわけじゃないのでね)×のペンキマークの方へずかずか進み、下着(タンクトップ)以外のTシャツをばばばっと脱いだのでした。
すーずーしーいー!!!!\(^^)/
しばしクールダウンしたあと、下に着ていた長袖Tは丸めてボンっとザックの中にしまい込み、半袖Tだけ再び着て支度完了。
気付いたら布団菱の上部はガスに覆われていました。これはこれで荘厳な眺め。またお目にかかりたいな。
さて!Tシャツ一枚ですっかり身軽になった私。荒菅沢を渡ったあとは結構な登り返しが待っていたのですが「すーずーしーいー!!!!」でわしわし登り切りました。
帽子に半袖にサングラスで、気分は夏休みの少年ですよ。(いや少年はサングラスなど使わんか)
登りの途中、ふと目についたミニきのこ。可愛いな。
登り切ったところでもう一度振り返ります。山頂方面はまだ見えているけどもう頭上は真っ白。まだ青空が見えているうちに登れてよかったな。
そうそう、登りでは写真を撮り忘れたのだけど、荒菅沢の少し手前(登山口側)に携帯トイレブースがあります。他の山でも言えることではありますが、この山域は山中にトイレがほとんどないため携帯トイレの持参が推奨されています。で、携帯トイレだけ持っていても何もない場所では使いにくい…ということで、
こういう場所を設けてくださっているのですね。今回実際に使う機会はなかったのですが、穴の空いた椅子に携帯トイレを設置して用を足すとのこと。
山とトイレの問題って本当に深刻ですもんね。山小屋が点在しているようなところなら安心なんだけど、実際はそうでない山域ばかり…。私も、普段里山に登る時は結構ドキドキしながら歩いています。こういう場所がもっと増えますように。
ちなみに今回私も使いたいなと思っていたのですが、「登山口に携帯トイレの自動販売機がある」という情報を得ていたので何の用意もなく現地へ向かったところなななんと売り切れで買えませんでした(T_T)もっと早く別の場所で探しておくべきだったな。行かれる方はどうぞお気をつけて…。
山登りは、ただ楽しく山を歩くだけじゃない。環境問題と真正面から向き合わねば、という意識が強くなります。
そんなことを考えながら歩いているとふと足元の赤い実が目に留まりました。マイヅルソウだ。マイヅルソウは葉っぱも花も実も可愛い(^^)
やがて、ブナの巨木が立ち並ぶ森へ戻ってきました。
堂々とした佇まい。
山登りを始めてから好きになったといえば、広葉樹ならブナ、針葉樹ならカラマツ。傘山山頂直下のブナの木も元気かなぁ。
そして急な下りが終わると、登山口はもうすぐそこ。↑下山後のソフトクリームのことしか考えていない夏休みの少年スタイルの私。
また不思議な形の木々の森を抜け…
少しだけ登り返したら…
12:49 登山口に戻ってまいりました~\(^^)/
ずっと気になっていた雨飾山。ようやく登ることができて、そして女神の横顔にも出会えて大満足の山行でした。
いつか紅葉最盛期にも登ってみたいなとも思うけど、あのブナの森は新緑の頃でも楽しめそうだなぁ。また必ず訪れよう。
おまけ。
伊那谷へ帰る道中の風景。
山の風景はいつでも美しい。