ひねもすのたり。

日々と山と猫と蕎麦屋のこと。

春の詩。

 

昨日の夜見ていた「心おどる あの人の本棚」というEテレの番組。今回はラジオパーソナリティクリス智子さんがご自宅の本棚を紹介されていたのですが、番組終盤、

〝春が来ると読みたくなる詩〟

という前振りで中原中也の詩集を手に。

え、ま、まさか…?とドキドキしながらテレビ画面を見つめていたら

 

春宵感懐

 

きたァーーーーーーーーー。

 

学生の頃は常に詩集を持ち歩くほど中原中也が好きでしたが、中でも一番好きな詩は「春宵感懐」でした。でも数十年もの間、この題名や詩の内容について誰かと話す機会は一切なく、常に文字とそれを読む自分の声が脳内でぐるぐる回るばかり。今回クリス智子さんが「しゅんしょうかんかい」と口にしてその音が耳に入った瞬間、わ…この詩って本当にこの世に存在したんだなと今更ながら実感してしまい、とてつもなく不思議な感覚に陥りました。

しかも、この詩はとても心地の良いリズムで書かれていてそれも好きなポイントなのですが、クリス智子さんの朗読と自分の脳内での朗読でリズムが若干違っていて、新鮮で面白かったな。

 

雨が、あがつて、風が吹く。

 雲が、流れる、月かくす。

みなさん、今夜は、春の宵。

 なまあつたかい、風が吹く。

 

前半はこの調子でゆるゆると進むけど、その後の

 

誰にも、それは、語れない

 ことだけれども、それこそが、

いのちだらうぢやないですか、

 

から脳内のリズムがぐずぐずになるのが常(それがまた良い)。

他にも心惹かれる詩はいくつも。深い悲しみや狂気、そして儚さと愛想笑い。

いつもどこへ行くにも連れ歩いた一冊。当時の私よ、なぜカバーをかけなんだ。

最近あまり開くこともなかったけど、今後も一生手元に置いておきたいので今更ながら透明のカバーをかけようかな。

さて、中原中也の詩が昔から好きだったと言っても、詩集以外の関連本などはほぼ読まずに今日まで生きてきた私でありますが、

かろうじてこの本は持っています。本屋でたまたま見かけて「こんな本も出てるんだ」と何気なく手にとりパラパラとめくってみたのですが…

こういう名言集って、人生に迷うときに生きる糧を与えてくれるような印象があるじゃないですか。なにか良いことが書いてあるかな、と眺めていると

あまりにストレートすぎる暴言に本屋で「ぶッッッ」と文字通り噴き出し、真っ先にレジへと向かったのでした。確かに詩以外の中原中也の印象そのまんまだわ。

あと、太宰治に対して

「青鯖が空に浮かんだような顔をしやがって」

と言い放ったエピソードも有名ですが、もちろんこの本にも載っています。

しかも中也は続けて「おめえは何の花が好きだい?」と尋ねていたらしく、それに太宰が泣き出しそうな声で「モ、モ、ノ、ハ、ナ」と答え、「チェッ、だからおめえは」と返したそうな。なにこの世界観。

 

この本の内容紹介には

中也の詩集や研究書は数多く出版されていますが、その「肉声」に焦点を絞った本はありません。本書では、稀代の詩人中原中也が、友人や恋人、家族などに語った言葉を集めました。日記や手紙などにも目を通し、心に染みる名言をピックアップ。この一冊で人間中原中也が浮かび上がります。

とありました。

はたして名言とは… と考え始めるとじわじわくるものがありますが、きちんとした詩集と、この名言集の二冊が私にとっての中原中也

しばらくぶりに、またじっくり読んでみようかなと思う春の夜であります。